ゲノム編集された双子の赤ん坊が誕生-パンドラの箱を開けた人類の未来 [人類の未来]
科学と倫理の分野における重大な一歩
ゲノム編集で双子誕生
中国の南方科技大学の賀建奎・副教授が、世界で初となるゲノム編集された(DNAに手を加えた)双子の赤ん坊を産む手助けをした(エイズ感染を防ぐために遺伝子操作)と発表した。
クリスパー・キャスと呼ばれるゲノム編集技術を使って改変したヒトの受精卵から、双子の女児「ルル」と「ナナ」が11月に誕生したと明らかにした。
ヒト遺伝子のゲノム編集とは、人間のDNAを改変することを指す。
このニュースには世界中の科学者たちが激しく反応。中国科学技術省が批判したことに加え、中国生物医学界も11月27日にこの行為を「狂気の沙汰」と強く批判した。
日本でも、日本ゲノム編集学会や日本医師会、日本医学会がこの行為を「大きな問題がある」と批判した。
「デザイナー・ベビー」というパンドラの箱
デザイナー・ベビーとは、生まれる前に遺伝子を編集して作り出された人間のことだ。
人間のDNAには、2万2000個程度のさまざまな遺伝子が存在する。生まれ持った先天的な特徴は、遺伝子によってあらかじめ決められている。
例えば病気の要因になる遺伝子や、親の遺伝子などの情報から、あらかじめDNAを改変することで、自然に生まれるよりも「健康」な子供をつくる。
この技術により、これまで人類ができなかった「人間をつくり出す」ような行為ができてしまうのである。これが、倫理に反すると認識されている点だ。
というのも、この行為が乱用されれば、優れた遺伝子を持つ人たちが世にあふれる。
一方でゲノム編集されずに生まれる「遺伝子的に劣る人たち」が差別されていくという世の中になりかねない。
さらにゲノム編集で細胞が突然変異してしまいかねないという危惧もある。
ゲノム編集に対する厳しい批判
2015年、「ヒトの遺伝子編集技術に関する国際サミット」
このサミットでは、生殖細胞の遺伝子編集は重要な問題を多く含み、「リスク、潜在的利益、代替手段の適切な理解と均衡を図る」ことなしに実施すべきではないとの見解に至っている。
デザイナー・ベビーが普及すれば人類が将来的にどんなふうに変異していくのか、またどんな社会が待ち受けているのか、正直言って想像もできない。
それでも、ゲノム編集が、研究者には底知れぬ科学的な探究心があるのも理解できるし、倫理的にダメだと広く認識されていても、そこに手を出してはいけないという世界的な取り決めがあるわけでもない。
「健康な子供を」と願う人は多いのではないか
おそらく全ての親が、健康な子供が生まれてほしいと願っているはずで、それがゲノム編集で可能になるならやってみたいと思う親は少なくないだろう。その願いが「人類の未来」よりも重要だと感じる人も多いかもしれない。
もっと言えば、賀建奎・副教授のような“実験”に踏み出さなければ、この分野に今後進歩はないのではないか、とも考えてしまう。何が起きるのかは、やってみなければ分からない部分もある。
誕生してから子供が苦しむのなら、その可能性は排除したほうがいいのではないか。また成人してからも、ゲノム編集で病気を予防、または治療できるなら、ぜひやるべきだとも思う。
日本では不妊治療などの基礎研究に限って認め2019年4月にも運用
日本でも文部科学省の生命倫理・安全部会は4日、「ゲノム編集」を人の受精卵に施す研究について、不妊治療などの基礎研究に限って認め、人や動物の子宮に戻し、妊娠、誕生させることは禁止する。
専門家会議の了承を経たうえで、2019年4月にも運用が始まる見通しだ。
世界的に大変な物議を醸している中国の研究者による今回の行為が、ゲノム編集の議論をあらためて世界規模で加速させる可能性がある。
reference:
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO3855070004122018EA1000/
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1812/06/news012.html